東京地方裁判所 昭和46年(手ワ)2739号 判決 1972年8月31日
原告 笹山直
被告 石川重之
右訴訟代理人弁護士 田中和
右同 西山鈴子
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
(一) 請求の趣旨
(1) 被告は、原告に対し、金三八万円およびこれに対する昭和四六年三月一七日より支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
(3) 仮執行宣言
(二) 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
(一) 請求原因
(1) 原告は、次のとおり記載のある約束手形一通(以下本件手形という)を現に所持している。
金額 三八万円
満期 昭和四六年三月一六日
支払地 東京都文京区
振出地 東京都中野区
支払場所 城北信用組合
振出日 昭和四五年一一月二五日
振出人 千葉出版株式会社
受取人 石川重之
第一裏書人 右同
(支払拒絶証書作成義務免除)
被裏書人 白地
(2) 被告は、本件手形を支払拒絶証書作成義務を免除の上、白地式裏書をした。
(3) 本件手形は満期に支払場所に呈示されたが、支払を拒絶された。
(4) よって、原告は、被告に対し、右手形金三八万円およびこれに対する満期の翌日である昭和四六年三月一七日より支払ずみまで手形法所定利率年六分の割合による利息の支払を求める。
(5) ≪省略≫
(二) 請求原因に対する認否
請求原因事実は全部否認する。本件手形の被告名義の裏書が、被告の記名印と印章によって顕出されたことは認めるが、これは、訴外森田文子が被告の承諾なく冒用したものであって、同女の偽造である。
(三) 仮定抗弁
かりに、原告が、被告から本件手形の裏書を受けたとしても、それは、いわゆる期限後裏書であるから、被告が裏書人として担保責任を負う理由はなく、また右裏書は原因関係を欠いている。すなわち、被告は昭和四六年三月一七日頃、訴外東京都商工信用金庫小山支店より、本件手形が満期に不渡りとなった旨の通知を受けたので、同日、右信用金庫より買戻した。原告が、本件手形を所持しているとすれば、右買戻後に、これを拾得したかまたは他の不正な手段で所持するに至ったものという外はないからである。
第三証拠≪省略≫
理由
(一) 本件手形の被告名義の裏書記載部分は、被告の記名印と印章で顕出されたものであることについて当事者間に争いがないので反証のない限り被告の意思により作成されたものと推定をすべきところ、右反証はない。右のとおり、≪証拠省略≫によれば、請求原因(1)ないし(3)の事実を認めることができる。
そうとすれば、本件手形の裏書記載は連続しているので、手形法一六条一項により、特に反対の事実を証明されない限り、原告を適法な所持人であると法律上推定をしなければならない。
(二) ≪証拠省略≫を総合すれば次の事実が認められる。
被告は、昭和四六年三月一七日、取引銀行である訴外東京都商工信用金庫小山支店より、本件手形が満期に呈示されたところ取引停止処分による解約後の理由で不渡りになった旨の通知を受け、被告が受取人兼第一裏書人(被裏書人白地)として記載されていたので、即日、買戻した。右買戻しにかかる本件手形には、交換印が押された上、取引停止解約後につき支払を拒絶する旨の城北信用組合の付箋が貼付され、同組合の契印が押されていた。その後、間もなく、被告の営む石川運送店の事務員である訴外森田文子は、被告の使者として右買戻しにかかる本件手形を金融業を営む原告方に持参して交付し割引を依頼し、割引を受けた。
(三) 被告は、かりに原告に対する裏書交付があるとしても、被告の原告に対する裏書交付(以下本件裏書という)は期限後裏書であると主張する。
本件裏書は前記認定のとおり白地式裏書であるから、これが期限後裏書であるためには、本件手形を原告に交付した時点が支払拒絶証書作成後であるかまたは支払拒絶証書作成期間経過後であることを要するところ、本件手形の交付が支払拒絶後であることは前記のとおり明らかであるが、支払拒絶証書作成後であることも支払拒絶証書作成期間経過後であることも認むべき証拠がないので、手形法二〇条二項により、本件裏書は支払拒絶証書作成期間経過前になされたものと推定せざるを得ない。しかし、本件手形については、裏書に、城北信用組合の交換スタンプが押捺され、かつ、取引停止後につき支払を拒絶する旨の城北信用組合の付箋が貼付され、右付箋と手形には契印が押されていることは前記認定のとおりであるから、本件手形が満期に呈示されて支払拒絶となったものであることは、手形面上一見して明白である。このような場合、その後になされた裏書は、たとえ支払拒絶証書作成期間経過前であっても、手形法二〇条の趣旨から、指名債権譲渡の効力しか有しないと解するのが相当である。
しからば、本件裏書には担保的効力はないので、白地式裏書人である被告に本件手形金の償還を求める原告の請求はその余の点につき判断するまでもなく失当である。
(五) 以上のとおりであるから、原告の請求はこれを棄却することとし、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 光廣龍夫)